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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)2678号 判決

控訴人 原告 萩葉儀助

被控訴人 被告 千葉県知事 柴田等

訴訟代理人 田口二郎

主文

原判決をつぎのとおり変更する。

一、控訴人の請求中

(一)、被控訴人が昭和二十三年二月二十七日付をもつてした府県道東金・茂原線長生郡本納町-山武郡瑞穂村(現大網白里町)地内道路の区域を一部変更し昭和二十三年二月二十七日から旧地域に属する道路の供用はこれを廃止する旨の告示のうち旧地域の一部山武郡大網白里町永田字宿一九四の四所在の土地に関する部分の無効確認をもとめる請求はこれを棄却する。

(二)、その余の控訴人の訴はいずれもこれを却下する。

二、訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、

原判決をとりけす

一、被控訴人千葉県知事が昭和二十三年二月二十七日付をもつてした府県道東金・茂原線長生郡本納町-山武郡瑞穂村(現大網白里町)地内道路の区域を一部変更し昭和二十三年二月二十七日から、旧地域に属する道路はこれを廃止する旨の告示のうち、旧地域の一部山武郡大網白里町永田字宿一九四の四所在の土地に関する部分は無効であることを確認する。

二、(イ)、被控訴人千葉県知事が昭和二十三年十一月十日山武郡大網白里町永田字宿一九四の四廃道敷五畝三歩を公共団体たる千葉県に交付した処分の無効であることを確認する。

(ロ)、被控訴人は控訴人にたいしみぎ土地につき千葉県地方法務局大網出張所昭和二十三年十二月二十日受付第一〇二二号をもつて千葉県のためにされた所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。

三、(イ)、被控訴人千葉県知事が昭和二十三年十一月十日前項の土地を訴外秋葉儀作に払下げた処分の無効であること確認する。

(ロ)、被控訴人は控訴人にたいしみぎ土地につき千葉地方法務局大網出張所昭和二十三年十二月二十日受付第一〇二三号をもつて秋葉儀作のためにされた所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。

四、被控訴人は控訴人にたいし山武郡大網白里町永田字宿一九四の四所在五畝三歩の土地につき昭和二十三年二月二十七日当時の地形に原状回復せよ。

五、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決をもとめ、

被控訴代理人は控訴棄却の判決をもとめた。

当事者双方の事実上ならびに法律上の主張、証拠の提出、援用、認否はつぎのとおり補正するほか原判決の事実らんにしるすところと同じであるからこれを引用する。

(事実関係)

控訴人は、原審において、本件判決の言渡時刻を午前十時と定め告知したところ、言渡期日の法廷内には言渡の時刻を午後一時と表示され、廷吏もその旨控訴人に告げたので控訴人は十時三十分まで法廷外に去つていたところその間に判決の言渡があつた。すなわち判決の言渡手続に重大な違法があるから原判決はとりけさるべきである、とのべた。

(証拠関係)

控訴人は、甲第六号証の一、二第七号証を提出し、当審証人内山仲の証言を援用し、原判決事実中乙第三号証の五の控訴人の印影の真正であることは認めるとあるは誤りで、同号証の成立は不知であり、乙第七号証を援用するとあるのも誤で援用しない。また原審において乙第三号証の六の成立を不知としたのは誤で成立を否認するとのべた。

被控訴代理人は、甲第六号証はその一のうち郵便局の日付印のみを認めその余は不知、同第七号証の成立を認める、なお、原判決事実に乙第四号証の五を提出した旨記載せられているのは誤でみぎは提出していない。

理由

控訴人の請求一について。

まず、みぎ請求について訴の利益があるかどうかを考えるに、道路がいわゆる公共用物であつて、公衆がこれを通行することのできるのは公物主体である道路管理者がこれを公物として維持し、一般交通の用に供していることによることは被控訴人のいうとおりである。したがつて、みぎ道路の存する公共団体の住民ないし一般公衆がみぎ道路を通行する便益は道路がみぎ公用に供せられたことの反射的利益であつて、各人に個別的になんらかこれを使用する特別の権利が設定せられたものとなすことはできないというべきであるが、行政庁がその管理する道路について公物としての供用を廃止する処分をなし、その処分が無効な場合その無効確認を請求することができる者を当該道路について道路法による占有使用権とか地方自治法第二〇九条所定の慣行による使用権等を有する者にかぎるとなすは狭きにすぎるものであつて当該廃止処分の無効につき直接の利害関係を有する者は、みぎ廃止処分の無効確認をもとめるにつき利益あるものとして広くその訴を許容し、その利益を保護すべきである。

本件について、これを見るに、控訴人は、被控訴人千葉県知事が昭和二十三年二月二十七日付千葉県告示第一二二号をもつてなした府県道東金・茂原線長生郡本納町-山武郡瑞穂村(現大網白里町)地内道路の区域を一部変更し昭和二十三年二月二十七日から旧地域に属する道路の供用はこれを廃止する旨の告示のうち旧地域の一部山武郡大網白里町永田字宿一九四の四所在土地に関する部分の無効の確認をもとめるものであるところ、成立に争ない乙第一号証の一、二乙第四号証の四と原審における控訴人本人尋問の結果ならびに本件弁論の全趣旨をあわせると、本件係争土地である山武郡大網白里町字宿一九四の四廃道敷五畝三歩は旧府県道路の一部で、みぎ土地の北西に同所一九六番宅地(石井英督所有)、同所一九八番宅地(控訴人所有)、同所一九九番宅地(大橋正男所有)、が相並んで直接道路に面し、控訴人はみぎ所有宅地上に住家を有し、道路に向つて出入口を設け、みぎ道路を利用することによつてのみ外界と交通する状況にあつたことがうかがわれ、自己の住家の唯一の出入口が廃道処分によつて塞がれたことにより直接生活上重大な支障をこうむつた者として前示無効確認を請求していることがあきらかである。そうすると控訴人は被控訴人が当該道路部分を廃道としたことについて直接の利害関係があるものというべきであるから、みぎ廃道処分を無効ならしむべき違法があればその無効確認をもとめる法律上の利益があるものというべできある。

そこで進んで本案について審理すると、当裁判所は被控訴人が昭和二十三年二月二十七日付告示をもつてした本件土地の道路供用廃止の処分は適法になされたものと判断せざるを得ないのであつて、その理由は「甲第六号証の一、二、同第七号証、当審証人内山仲の証言によつても原審における認定を左右することはできない」とつけ加えるほか原判決にしるすところ(判決書十五枚目表第十行ないし十八枚目裏第六行)を引用する。

すなわち控訴人の請求一は訴を不適法として却下すべきものではなく、理由がないとして棄却すべきものといわねばならない。

控訴人の請求二の(イ)について。

控訴人はつぎに、被控訴人知事が昭和二十三年十一月十日山武郡大網白里町永田字宿一九四の四廃道敷五畝三歩を公共団体たる千葉県に交付した処分の無効確認をもとめるものであるが、前記請求一について説示したように控訴人は本件土地が道路たる公用を廃止されることについては直接の利害関係を有するものであるけれども、すでに廃道敷となつた本件土地がその管理者たりし被控訴人知事によつて公共団体たる千葉県に交付せられたとしても控訴人は被控訴人知事のみぎ行政処分については、直接利害関係なく、その無効の確認をもとめる利益がない。よつてみぎ訴を不適法として却下すべきもので、この点に関する控訴は結局理由がない。

その余の控訴人の請求について。

控訴人の二(ロ)、三および四の各請求については当裁判所は訴を却下すべきものと判断するものでありその理由は原判決に示す理由(判決書十八枚目裏第七行ないし十九枚目表第十行)と同じであるからこれを引用する。すなわちこの部分に関する原判決は正当で控訴は理由がない。

なお、控訴人は原裁判所が原判決の言渡手続を誤つたもののように主張するけれども本件記録中の口頭弁論調書の記載によると、裁判長は昭和三十四年七月二十七日の口頭弁論期日においてみぎ判決の言渡期日を同年九月十四日午前十時と指定し、同日時にみぎ判決が言渡されたことがあきらかであり、なんら手続に違法のあることを認めることはできない。

以上の次第で原判決は一部失当であるからこれを変更し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九十六条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 牧野威夫 判事 谷口茂栄 判事 満田文彦)

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